取り返しがつかない

 フリクションペン」というペンがある。

frixion.jp

2007年に発売されたPILOTの大ヒット文房具のことで、簡単に言うと「こすって消せるボールペン」だ。摩擦の熱で消えるので、鉛筆のような消しカスは発生しない。(意外とまだ知らない方もいるようなので、一応説明しておく)

 

僕は建築や不動産に関する営業の仕事をしているので、紙の図面を頻繁に扱う。指示や依頼等の業務コミュニケーションに、図面が欠かせない。プレーンな図面ではなく、赤ペンで箇所や内容が書き示された図面だ。

 

フリクションペンが発売されるまではボールペンで業務依頼を書き記していたが、ミスをすると最初からやり直しになる場合が多い。軽微なミスは修正ペンで消せるが、ごちゃごちゃした図面ではそうもいかず、残念ながら最初からやり直しという憂き目にしばしば遭っていた。

 

フリクションペンは、間違えた箇所だけをこすって消して書き直せるので、図面に書き込んで業務依頼をする上での労力がボールペンに比べて大きく軽減された。そうすると、図面だけではなく、当時使っていた手帳やメモなど、日頃の筆記全般にフリクションペンを用いるようになっていた。そこで、気がついたことがある。

 

いつの間にか緊張感がなくなって、字がどんどんと汚くなっていたのだ。

「間違えても消せるしいいや」 「汚かったら書き直せばいいや」

 

ボールペンは間違えると一発アウトなので、事前に書く内容や文字の大きさやバランスを考えていたのだが、フリクションペンになると、いつの間にかそういった配慮を欠くようになっていたことに、ある時気がついた。自分が書いたグチャグチャの文字を見て。

 

振り返ると、小学校の夏休みの宿題で読書感想文を書くために、原稿用紙に鉛筆を走らせたことを思い出す。鉛筆は消すことができるとはいえ、1文字あたり1マスという制約があるので、送り仮名や句読点等で1文字を間違えてしまうと、ある程度のところまで戻って消して書き直したり、その範囲があまりに広い場合は、その原稿用紙だけ最初から書き直しということがあった。それらの憂き目に遭うことを避けるために、慎重さや丁寧さを増したり、文章構成をより深く考えるようになっていった。ここまで全て、要は緊張感である、ということが言いたい。あとは不可逆性。

 

お前の一日は、人生は、フリクションペンじゃないぞ、ボールペンだぞ。しかも紙じゃないんだから、一度間違えてもやり直しができないぞ。一筆入魂だ。もっと緊張感を持てよ。

 

毎日お世話になっている一本のペンのおかげで、自分が下す毎日の判断に緊張感が足りないと知らされた気がしている。 

当たり前だが、人生はよくも悪くも、取り返しがつかない。

 

取り返しがつかないならどうするんだ、という話はまた別の機に。